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散る桜 残る桜も 散る桜

長いお休み。のんびり世界を眺めるブログ。

 

私にはいつも遊ぶ野良猫がいる。

その野良猫は、自宅を出てすぐの坂道を下っていく途中にかかっている首都高速の下に住んでいる。

野良猫の住処の上を車が走る。コンクリートしかない、どんよりとした住処。首都高速の下の道はレンガ詰になっていて野良猫たちは腹を見せてしょっちゅう昼寝している。 

 

夢を見た。

 

夢の中で、私は、首都高速の下のレンガ詰の道をとおって自宅へ向かって歩いていた。西日が差していた。

 

自宅前の坂道へむかって進んでいくと、レンガ詰の道の左手に見慣れない柵ができている。気になって、その柵に手をかけ身を乗り出すと下に遠浅の海ができていた。薄暗く街灯の明かりだけが海と濡れた小さな砂浜を照らす。

 

しばらくぼーっと海を見下ろしていると、ふいに砂浜の端にある草の茂みがガサゴソと音を立てた。夢の中の私はどうして、『こいつは蟹だ』と直観した。

案の定、その茂みの中には蟹がいた。薄藍と赤を混ぜたような、沼の蟹とも、磯の蟹とも区別のつかないおどろおどろしい姿をしていた。

蟹はこちらに気がつくと、横ばいに歩きながら向かってくる。そして、こちらまであと五、六歩というところでピョイッと糸で吊られたように飛び、柵を越えてこちらにやってきた。どれ、飛んだ蟹を見ようと足元をみると、その蟹の他に、私の足元にもう一匹、仰向けに転がっている蟹があった。じっと二匹を眺めていると、不意に先ほどの蟹が飛び上がり仰向けの蟹の腹を目掛けて着地した。二匹の蟹は抱き合うようにしてじっと動かなかった。しばらくすると、下敷きになっている方の蟹の腹から白い触手のようなものが伸びて来た。まるでエノキダケのようだった。上に飛び乗った蟹が、その触手を腹で受け止めた。触手は蟹の腹のなかにじゅるりと入っていった。

ああ、蟹の性交というのはこういうものか、と思い立った。

 

蟹たちの生命の再生産を眺めていると、まぐわる二匹の向こう側にベシャリと潰れた蟹を見つけた。殺そう、という意図もなく、誰も気がつかぬうちに上から人間の足でもってグシャリと潰されたのだと思った。薄藍と赤の甲羅が粉々になり、その下には濡れて街灯に照らされた蟹の肉、内臓がビチャビチャと潰れて飛び散っていた。生命の生まれる横で、踏みつぶされた小さな死があるのを眺めた。波のさざめく音が聞こえた。夜は深く、深く、黒くなっていった。

 

ここで夢は終わる。

 

野良猫は普段あれほど一緒に遊んでいるのに不思議と夢の中には出てこなかった。猫は、塩水が嫌いなのかもしれない、と思った。

 

ぼくは夢をみるんだ
きみがむっくり立ち上り
「父」を見る瞬間を

きみはいま十ヶ月
ひとりで立ち上って戦うために
なんと時間がかかるんだ

ぼくはよく夢にみる
秋風とともに立ち上り
「垂直」を
きみが経験する瞬間を

【未知くんへのメッセージ】