春雪雨
どんよりとした空に、冷たい風が吹いていた。バス停のトタン屋根で雨粒がポツポツと音を立てる。電光掲示板は、バスが一駅前まで来ていることを告げるが、姿は一向に見えない。
袴姿の女の子が向かいを通った。矢羽模様に臙脂の袴、椿模様に紫袴、朱、黄、橙、薄桃、紫、紺。三月の曇った寂しい空によく映えていた。
私はガラクタのようにずっと留まり続けている。
会社に行かなくなってから5ヶ月がたった。
朝目覚めると誰もいないリビングへいき、ソファに寝そべる。高架下の野良猫のようにギュッと体を丸めると、息を止めた。
何も入らないように。
隙間のないように。隙間のないように。隙間のないように。
自分を自分で抱きしめると思っていたより柔らかくてみじめだった。できることなど1つもないくせに、世界中の孤独を背負ったような顔で涙を流した。小さい頃使っていた毛布には動かないきりんや、ねずみ、こねこ達があの頃のにおいを蒸し返した。
尽くす手は、もう、無い。私は何も考えずにすむように目を瞑った。
はっと気づくと、時計は大体15時前後を指していた。
今日も私は存在しないままだろう。
1日が全ての終わりを告げるように西日を投げかけた。